120年前に「尺八の本質は音色にあり」と看破した英国人



Kishi Kiyokazu
Professional Member
120年前に「尺八の本質は音色にあり」と看破した英国人
「私はある暗い晩の出来事で、いまだに記憶していることがある。それは中禅寺湖の山村にある料亭で、露台に休んでいるときのことであった。小さい木製のいかだに点じられている数百のろうそくの明かりで湖面はあかるくなっていた。精霊流しの供物が水の上をゆらゆらと流れてゆき、対岸の神社に繰り出していく参詣者の祈願の声さえ運んでいた。すると突然、湖面を渡ってこの単純な笛(尺八)の柔らかく透きとおった音がきこえてきた。
 日本へ来て間もない頃の私は、この国民が非音楽的であると聞かされていただけに、このガラリア湖とでもいうべきところから、こんなに美しい音が流れてきたのには驚くほかはなかった。」
(原著Francis Taylor Piggott (1893) "The Music and Musical Instruments of Japan"の邦訳『日本の音楽と楽器』1968年音楽之友社、p56より)

 この文章から分かるとおり、日本美術、特に浮世絵が西洋の美術界で高く評価され印象派に大きな影響を与えたのとは対照的に、19世紀末の時点で、日本音楽はヨーロッパでは"非音楽的"、聴くに値するものなど何もないと思われていました。ところが、中禅寺湖の尺八体験など経た英国人ピゴットは「いや、そうではない。日本にはそれ独自の美しい音楽がある。」と考えたのでした。
 1889年(明治22年)頃に来日し彼は素人なりにこの考えのもとに日本の音楽を調査し,帰国後の1893年(明治26年)にその成果を『"The Music and Musical Instruments of Japan"』として出版したのです

 「尺八は最初から独奏楽器として扱われていたが、既にも記したように三味線との合奏にはときどき使われている。
 尺八がどうしてこの国に採用され、その美しい音色がどんなに日本人に喜ばれているかということは、この国の音楽を研究する者にとって少なからず興味のある問題になるようだ。」(p55)
 ここでも著者は尺八の音色のすばらしさに言及しています。
 尺八の音色は人種・国籍を問わず、人間の心の深いところに訴える普遍的な美しさを持っているのです。これは信じていいことだと私は思います。
 
 しかし、本当に良い物、芸術的なものを享受するには受け取る側の感性が大きくものを言います。まだ言葉もしゃべれない時からテレビの前に置かれてガチャガチャした音の洪水にさらされ、車がひっきりなしに轟音を立てて通り過ぎていく道を歩き、食事の時でさえテレビが大音量で喋くっている、そういう中で何年も、何十年も過ごせば「良いもの、優れたもの」を聴く感性はマヒしないわけにはいきません。
 海外はのことは分かりませんが日本の尺八を吹いている愛好家の中でもいまだに「大音量(バカ鳴りといいます)、指の器用さ」等に感激する人がたくさんいます。

 さて、この本の著者は「よい感性」を持った人だったのでしょう。だから尺八の音色も深く受け止めることができたのだと思います。
 
 さて、原書では尺八の音色を次のように表現しているそうです。
"mellow notes", "beautiful sound", "soft clear tone", "the mellowest of wind instruments","sweet (sound)"
 特にこのmellowという言葉は印象深いです。単にきれいではなく、
〈果物なら〉熟していて、〈お酒なら〉芳醇(ほうじゆん)で〈光なら〉豊かで美しい,そして〈人間なら〉年をとり経験を積んで円熟した,そういう言葉です。
 この中で〈大音量の〉はでてきません。ピゴットは尺八の「豊かで芳醇な」音を賞賛しているのです。
 
 
 最後に、昨年2012年6月に京都で開催された国際尺八フェスティバルで耳にしたことですが、「日本と海外の尺八人口が逆転し、いまでは外国人の尺八人口の方が多い」という話です。事の真偽はべつにして。この本の著者が感激しているとおり、深い感性を持った人々にとっては尺八の音色は普遍性を持っているし、また自分も吹いて見たくなるのだと思います。
 世界で何千人という尺八吹きが生まれている現実を前にしますと私も微力ながら、かえって日本国内で尺八の良さを広める努力をしなければならないと思う次第です。
 ESSのメンバーの方々は、どうお思いになるでしょうか?

http://www.bmbnt.com/shaku8/
I run Shakuhachi-playing-study-group(尺八吹奏研究会). I have been studying the shakuhachi and published a text book [尺八吹奏法Ⅱ]. I wish to share with pleasure of playing the shakuhachi with all of the ESS members.
Kiku Day
Moderator
Kishi Kiyokazu さん、

下手な日本語ですみません。

とても美しい、興味深いポーストありがとうございます!
私は民族音楽者ですが、Taylor Francis Piggott の本は知らなかったです。それだけでも、本当に興味深いポースとでした。

尺八の音色は本当に素晴らしいです。それに、どうして外国人がそれにひかれるかは二つる友があります:
1.まず、音が素晴らしい。岸様が言うとうりに人間の深いところを触れる。
2.本曲は日本の現代音楽の中でも、西欧人にはとても聞きやすいのです。音階や、音の使い方がどんなに他の文化を理解できない西欧人でも、聞きやすい方です。例えば民謡や、三曲は歌がなかなか難しいのです。声の使い方が例えばあまりも違いすぎて、一般的の西欧人の美感美感から違いすぎる。ただし、美感も変わるもので、今三曲に対しても、民謡に対しても心に入れられるようになってきましたのを、最近感想しています。
3.禅仏教とのつながり。禅仏教は特にアメリカで早くから興味ある人がいて、そのつながりがあって、興味もつ人がたくさんいます。

後は岸様が書いたとうりに、ユニバーサルなクオリチーがあります。私もそう思います。

ただし、尺八人口はどんなに日本の外に増えていても、やはり一番人口がいるのは日本です。だからこそ、若い日本人も吹き出すように尺八の魅力を紹介することが大事です。今度の世界尺八フェスティヴァルがヨーロッパにあるので、ESSは4−5人尺八を吹いている大学生を呼びたいと思っています。どうしてヨーロッパへ行って尺八を吹きたいのかエッセイを書かせて、コンペティションみたいにして、来てほしいです。尺八を吹きたいと刺激与えたいです.それで、なるべくESSがやっているサマー・スクールなど日本で知らせて、世界中で一緒に楽しみましょうと、コミュニケーションしたいです。

岸様はどう思いますか?
Kishi Kiyokazu
Professional Member
キク・デイさん、
 ご感想、ありがとうございます。
  数年前、南アフリカの青年が尺八の音色に惹かれて日本に習いにきていました。かれは「尺八は、ぼくの育った海岸の波の音がする」と言っていました。これは彼と偶然、日本の尺八発祥の地という伝説のある和歌山県の興国寺で出会ったときの話です。
 キクさんの「尺八の高い質(quality)」の示唆はたいへん参考になりました。また、日本の発声などが非日本文化圏の人には異質なものに聞こえるというのも大いに勉強になりました。
 有り難うございます。
  初めてこのフォーラムに参加させていただき嬉しく存じます。英語は得意ではありませんが、将来的にはフランス語は無理として、せめて英語でも意見をのべたいと思っています。
 
KIKU-san, Thank you for your precious comment.
It's a very useful comment for me that Shakuhachi has universal quality.
And "Japanese traditional voice custom is a little odd for non-Japanese people.
I'm very interested in joining in this forum.
Thanks to all ESS members.
I run Shakuhachi-playing-study-group(尺八吹奏研究会). I have been studying the shakuhachi and published a text book [尺八吹奏法Ⅱ]. I wish to share with pleasure of playing the shakuhachi with all of the ESS members.
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